ボン・ディーア!
昨日、悲しい事実を知りました。リスボンに来てから、心の拠り所にしてきたレストランが廃業したようなのです。ポルトガルでは5月18日より、飲食店が再開できることになっています。この店はFacebookで再オープンを告知した後、すぐに延期と訂正。再オープンの日には、一番に駆けつけるつもりだったのに・・・「なぜ???」と思っていた矢先のことです。
「5月下旬現在、オープンできてないレストランは廃業した可能性が高い」との情報を耳にし、まさかと思って調べてみると、Googleマップのステイタスが「閉業(Permanently closed)」に、さらにFacebookページもなくなっていました。
すぐに店の様子を見に行くと、店内にテーブルなどは残っているものの、誰もいませんでした。ポルトガル人の友達に状況を説明すると、「6月から再開するレストランが多いって聞くから、もう少し待ってみよう」との返事。レストランのおじさんたちが元気に再開してくれることをただただ祈ります。
非常事態宣言中、一番恋しかったお店(↓)
2020年5月下旬、ポルトガルの感染状況
経済活動を再開してまもなく4週間が経過するポルトガルですが、新型コロナウイルス感染状況は、落ち着いています。
ちなみに、2020年5月26日現在のデータは以下の通り。
感染者数:31,007
死者数:1,342
回復者数:18,096
陽性者数:11,569
重篤患者数:71
残念ながら、今も毎日10数名が亡くなっています。しかし、回復者数が現時点での陽性者数を上回り、重篤患者数も100人を切りました。
以前、なぜポルトガルで感染爆発や医療崩壊が起きなかったかを記事にしました(↓)
今回は、PCR検査に関する視点から書かれた記事を紹介します(↓)
経済的に貧しくて高齢化が進む国
しょっぱな、「ポルトガルは裕福な国ではない」と始まることから、なんとなく、この記事を書いた人はポルトガル人な気がします。
「ドイツのように製造業や製薬業が盛んなわけでも、韓国のようにMARSを経験したわけでも、デンマークやスイスのように潤沢な資金があるわけでも、イギリスのように高水準の教育システムがあるわけでもない」と、筆者は強調します。
ポルトガルは、65歳以上の割合が日本、イタリアに次いで世界で三番目に多い高齢化社会です。
さらに、ラテン語をルーツとする言語のみならず、債務危機の傷跡、豊かな食・ワイン文化など、スペインやイタリアとの共通点が多いことから、ポルトガルで感染爆発が起きても不思議じゃなかった・・・。悪い条件が整っているのに、なぜ、ポルトガルは持ち堪えたのでしょう?
リソースが少ない国だからこその危機意識
ノヴァ大学の機関に勤める公衆衛生の専門家は、以下のように分析しています。
「ニュースで流れたイタリアやスペインの惨状がポルトガル国民の危機意識を高めた。それは漠然とした恐怖ではなく、リソースの少ない国だからこそ、”もし感染したら治療はままならない。より豊かな国ですらこんなことになっているのだから、自分たちは感染するわけにはいかない”と考えたのです」。
事実、ポルトガルのICUベッド数は、ヨーロッパ諸国で最少。国民10万人あたりの数に換算すると、医療崩壊したイタリアの12.5に対して、ポルトガルは4.2と、約3分の1しかありません。
つまり弱小さゆえ、国民一丸となって鉄壁の防御ができたと言えます。
ヨーロッパ各国のICUベッド数(10万人あたり)
*グレー部分はヨーロッパ全体の平均値
早い段階でPCR検査を大学や民間へ委託
PCR検査についての考えは国によって違いますが、ポルトガルは、疑わしいケースはすべて検査し、感染者とウイルスの動きをできるかぎり把握する方針です。
つい最近まで国民保険サービス(NHS)が検査体制をコントロールしていたイギリスとは対照的に、ポルトガル政府は、早い段階で検査を大学や民間機関へ委託・分散を決めました。これも、リソースの少ない国ならではの判断だったのでしょう。
それでも、当初は、十分な検査の準備ができておらず、かなりのプレッシャーだったそう。
リスボン大学の教授が聞き取り調査した際も、大型病院の医師たちは「少なくても結果を出すのに2〜3時間かかり、高価な検査を十分確保できるわけがない」と口を揃えていた・・・。
しかし、この教授は「普段からすべての研究室でPCRを扱っているのだから、検査自体が難しいわけではない。なら、他国から取り寄せる高価な検査キットを使わずに、それに近いものを国内で生産すれば良いのでは?」と考えました。
3月末には国内産での検査を開始
教授が依頼した研究者は2〜3時間で検査キットの原案を作成。翌日には、国内の企業に大量生産が可能か打診。1週間以内には、生産体制が整ったというから驚きです。
「ポルトガルの政府機関は素晴らしい。責任者に連絡を取るとすぐに、”一緒に検証していきましょう”と許可を出してくれ、認可プロセスもスムーズだった。そうして、3月末には高齢者施設などでの大量検査が可能になったのです」。
2〜3週間後には、この国産キットを使った大量の検査に、ポルトガル全土の大学研究室や民間機関が参加しました。
そして、4月上旬には、毎日9,000件の検査を実施。人口が5.5倍、GDPが10倍以上であるイギリスの3月末時点での検査数が1日10,650件であることを考慮すると、かなり高い検査率です。
5月25日現在のトータル検査数(1000人あたり)
小国ポルトガルがアメリカやイギリスに比べても高い検査率を実現していることがわかります。
追加資料(↓)
目的地がはっきりしていたから風が味方した
記事では、もちろんポルトガルでの検査体制も完璧ではないと言及しています。5月18日現在、感染者や症状のある人の治療に当たった医師2,353人の47.17%しか検査を受けていないとのこと。
一方で、5月上旬からの経済活動再開に先立ち、ポルトガルで必要なマスクと人工呼吸器の国内生産も軌道に乗ったとの報道がありました。また現在、当局は抗体検査や血清学的研究も進めているようです。
いずれにせよ、2020年5月26日現在、ポルトガルは、パンデミックをうまくコントロールしている国のひとつなのは間違いありません。
感染対策がうまく機能したのは、人口1,000万人(東京23区の人口は957万人)の小さな国だったからかもしれない・・・。政府も、関係機関も、国民も、専門家も、大学も、医療現場も、自国の弱点を知り、それぞれができることに励んだ結果なのではと思います。
記事の最後に、呼吸器科医の言葉が紹介されています。
「これは奇跡ではない・・・(中略)ポルトガル語で、”目的地がわからなければ、風を読むことはできない”ということわざがある。つまり私たちは目的を共有し、2週間遅れてウイルスがやってきたことで準備を整える猶予があっただけにすぎないのです」。
ポルトガルでの新型コロナウイルス関連の記事(↓)